水の使い分け
生活シーンの中で 水の使いわけ を工夫すると料理がさらにワンランクアップしたり、コーヒーがさらにおいしく飲めたりします。
日本料理は水の使い分けによって味がひきたちます。
生活の中で水を使い分ける
料理で水を使い分ける
世界中のあらゆる料理の中でも、日本料理ほど水が重要な役割を果たしている料理はありません。
特に日本料理の基本であるごはんとだしは、水がその味を決めるといっても過言ではないほど。お米のおいしい地域には、大抵「名水百選」などでも知られています。
日本料理の世界では、昔から水のさまざまな利用法が考えられてきました。
たとえば、ほうれんそうや小松菜などの緑の野菜を茹でてから冷たい流水にさらすのは、葉緑素を冷やして色止めし、緑の鮮やかさを失わないようにするための技術です。
鯉の刺身を水にさらす「洗い」やあわびなどの貝を用いた「水貝」も、生臭さを洗い落とすのと同時に刺身の鮮度を保つための知恵です。
しかし、こうした日本料理は、生活廃水や化学物質に汚染されていない「美しい水」が生み出した文化。
塩素たっぷりの水道水や、有機物に汚されたマンションの貯水槽の水では、その本当の味わいを生かすことはできません。また、こうした水道水に含まれる化学物質は、米や野菜に含まれる貴重なビタミンまでも破壊してしまいます。
そこで提案したいのが、料理にミネラルウォーターを使うこと。しかし、それでも水の使い方を誤って、硬水で和風だしを取ってしまったり、軟水で洋風だしを取ってしまったりすると、素材の旨味を十分に引き出せないことがあります。
また紅茶や緑茶をいれる場合も、その茶葉にふさわしい水を選んだ方がより深く、香りや味わいを引き出すことができるのです。それでは、身近な料理について、水の使い分けを説明していきましょう。
軟水が引き立てる和風だし
和風だしの取り方には、大きく分けて2つの方法があります。干し海老や干ししいたけなど常温の水で戻すやり方と、昆布やかつおぶしなどお湯で煮出す方法です。
戻す場合は、熱を加えないわけですから、水そのものの質がだしの味を大きく左右します。塩素の強い臭いのついた水道水をそのまま使ったりすれば、だしの微妙な風味が打ち消されてしまいます。ミネラルウォーターでも個性の強い硬水は、不向きです。最適なのは硬度が100未満の軟水、それも無殺菌のやフィルター除菌のフレッシュな水を使うのがいいでしょう。
市販のミネラルウォーターでは、「南アルプスの天然水」 などがいいでしょう。
ただし、煮干しのように臭みが出やすいだしの場合は、やや硬度の高い水、「六甲のおいしい水」などを使った方がそれを抑えることができます。
煮出す場合は、加熱することが前提なので加熱殺菌されたミネラルウォーターでも問題ありませんが、硬水を使うのはやめましょう。
旨味のもととなるアミノ酸や核酸系の物質がカルシウムと結合して、アクとなって出てしまうからです。
また、かつおぶしに含まれるたんばく質もカルシウムやマグネシウムと結合しやすく、昆布のグルタミン酸も水に溶け出しやすい特徴を持っているので、くせのない軟水、「屋久島縄文水」などが向いています。
それでもあまり沸騰させすぎたり長時間煮出したりすると、素材の臭みまでだしの中に溶け出してしまうので、タイミングには十分注意します。
炊飯に最適な水は?
夏場のカビ臭の強い水道水で炊いたら、ごはんまでカビ臭くなってしまった、という経験は多くの人がしています。
浄水器は、、カルキ臭は除去できますが、カビ臭まではなかなか取れません。水道水の質の悪い地域の団地やマンションで生活している人なら、多少のコストは高くても、ふっくらつややかなごはんを炊くには、ミネラルウォーターを使うことをおすすめします。
昔から、ごはんを炊くにはその米が穫れた産地の水を使うと現地で食べるのと同じ味わいになるといわれています。
また海外で生活する人が、ごはんがおいしく炊けなくて困るという話もよく聞きます。
しかし実際は、日本の水でも外国の水でもあまり硬度が高すぎなければ、同じようにおいしく炊けます。炊飯は数十分も加熱を続けるため水のミミネラル分が失われてしまうことが多く、軟水でも中硬水でもそれほど炊き上がりに差はありません。
ただし「コントレックス」のように極端に硬度の高い水を使用すると、ごはんがパサパサになってしまう場合があります。これはカルシウムが植物組織を固くしてしまうためです。
ふっくらしたごはんを炊くなら「ボルヴィック」、粒の立ったごはんにするならカルシウムの多い「龍泉洞の水」などと、使い分けるのもいいでしょう。
しかし、ごはんを炊く場合、最も大切なのは、炊く時に使う水ではなく、洗米に使う水なのです。天日乾燥をしていた昔の米に比べ、今の米は機械乾燥していますから、含んでいる水分が少なく、乾いたスポンジのようになっています。
従って、洗米の時に水につけると米はあっという間に吸水します。この時水道水を使うと塩素まで吸収して、米のビタミンが破壊されてしまうのです。
精白した米を15分間水道水につけたところ、ビタミンB1が減少したというデータもあります。
ですから、本当に米のおいしさを味わいたいのなら、洗米もすべてミネラルウォーターでした方がいいのです。
しかし、毎日のことですからどう考えてもコスト的に無理があります。
そこでおすすめしたいのが、米を研ぐ前に数十分間、ミネラルウォーターに浸すことです。こうして米にミネラルウォーターを吸水させれば、研ぐ水は水道水でも、ビタミンの破壊を抑えることができます。
洋風だしには中硬水を使う
最近は、スープやシチューなど、洋風だしを使う料理も食卓によく並ぶようになりました。それでも使っているのは市販の固形スープ、という人が多いものです。本格的な料理を作りたいと思うなら、牛肉や鶏ガラ、野菜などを手間ひまかけて煮込んだ、本当の洋風だしを使ってみたいもの。
しかし、料理の本を見ながら頑張ってスープを作ってみたのに、少しもおいしくならない、という経験をした人も多いと思います。その原因は、じつは水にあるのです。
水道水や国産ミネラルウォーターのような軟水で肉を長時間煮込むと、肉の臭みがスープに移つてしまいます。
ちろん質のいい肉を使えば問題はないのですが、骨つきの硬い牛スジ肉を使ったりすると、旨味よりも臭みが目立ったスープになる場合さえあります。
固いスジ肉を長時間煮込むなら硬度300 くらいの中硬水、「 エビアン」 や「ヴィッテル」がおすすめです。
それは、水に含まれるカルシウムと肉を固くする「硬たんばく質」や肉の臭みのもととなる成分が結合して、アクとして出てしまうからです。ただし、カルシウム自体にも肉を固くする性質がありますから、あまり硬度の高すぎる水は不向きです。
また、アクがたくさん出ることで、水に直接臭みや濁りが溶け込みませんから、アクをこまめにすくえばすくうほど、澄んだ美しいスープが出来上がります。少し手間をかけるとずいぶん仕上がりに差がでます。
煮物は軟水と中硬水を使い分ける
洋風スープを取るのには中硬水がいいのですが、単純に肉を柔らかく煮込むという目的に使うのなら軟水の方がいいでしょう。
カルシウムやマグネシウヨーロッパムにたんばく質を硬くする作用があるからです。この料理では、肉をいきなり水で煮込んだりせず、スープストックで煮込むことが多いのですが、これはヨーロッパの水が硬水であるため、スープストックを用いた方が、肉が固くならないからなのです。
ですから、煮込みや肉じゃがといった料理も軟水の方がおいしく仕上がります。また魚を用いた煮物の場合も、軟水の方が魚が柔らかく煮上がります。「南アルブスの天然水」 や「仙人秘水」、などは煮物向きの水です。
野菜を煮る場合も、できれば軟水を使う方がいいでしょう。カルシウムには植物の組織も固くする作用があるからです。
特にくたくたに煮込むという場合は、軟水の方が効果的です。また日本の野菜にはもともとアクが少ないので、硬水を使わなくても十分にアク抜きができます。
ただし、野菜を煮崩れしないようにしたい場合は、カルシウムが多すぎない程度の中硬水を使う方が、野菜独特のシャキシャキとした歯応えに仕上がります。
そして、アクの強い洋風野菜などを煮込む場合も中硬水が向いています。
ヨーロッパでも野菜を煮込む時はそのまま水を使いますが、それはヨーロッパの野菜が日本のものに比べてアクが強いため。もちろん水のミネラルと野菜のアクが結びついて、煮汁の表面にたくさんのアクが浮かびますが、これをていねいにすくうと、すっきりしたクセのない味に仕上がります。
鍋物、しやぶしゃぶは中硬水がおすすめ!
冬場の食卓の主役は何といっても鍋物です。体も温まり、準備にも比較的時間がかからないことから食卓に並ぶ機会も増えます。
たらちり、ふぐちり、鶏の水炊き、かに鍋と、鍋物は日本の風物詩といってもいいほど。しかし、この日本を代表する料理である鍋物には、意外にも中硬水が合います。
なぜなら、鍋物は煮物と違って、素材そのものの味わいや歯応えを楽しむ料理ですから、肉や野菜が柔らかくなりすぎてしまう軟水よりは、シャキッとさせる中硬水の方が、より素材の持ち味を生かせるからです。
とりわけ、短時間のうちに肉に火を通してしまうしゃぶしゃぶは、中硬水を使うとスープに肉の臭みが移らず、旨味だけが溶け込むので、おいしさが際だちます。
そのかわりアクはたくさん出ますが、丹念にアクをすくえば、良質なスープが後に残ります。このスープで味わうお粥やうどんはまさに絶品。ただしカルシウムの多い硬水を用いると、アクがたくさん出て、スープ自体も濁ってきますから、アクをすくうのが面倒という人は軟水を使って下さい。
また、鍋に豆腐を入れる場合も硬水は向きません。豆腐を固めるニガリの主成分は塩化マグネシウムなので、マグネシウムの多い水を使うと、豆腐が固くなってしまうからです。
日本茶は軟水を使うとより香りが引き立つ
緑茶はグルタミン酸や甘みの成分であるテアニンといった物質が含まれます。また若葉の爽やかな芳香を残す、非常にデリケートなものです。この微妙な味わいと香りは、それにふさわしい水を使わないと引き立ちません。塩素やカビ臭、鉄サビ臭がある水道水はもってのほかです。
よく「都会のお茶はまずい」といわれますが、これは都会の水道水がお茶をいれるのに不向きな水だからです。お茶の繊細な味と香りを生かすためにふさわしい水は、軟水のミネラルウォーター。それも硬度50前後の水がいいでしょう。
あまり硬度が高いとお茶に含まれているタンニンンがうまく抽出されませんし、反対に低すぎても香りが出てきません。そして、硬度と同等に大切なのが、水の温度です。緑茶は抽出する水の温度が高いと、苦みばかりが強く出てしまい、甘みが感じられなくなります。ですから沸騰したお湯でそのままいれたりせず、必ず摂氏80度くらいに温度を下げてから使うようにしましょう。
紅茶は茶葉によって水を選ぶ
コーヒーが盛んなヨーロッパにあって、イギリスでのみ、紅茶の文化が生まれたのに理由があります。硬水が多い他のヨーロッパ大陸の国々と違って、島国であるイギリスの水は、日本の水に近い硬度100くらいの中硬水が多いため、紅茶をいれるのに適しているのです。紅茶は発酵の過程が加わるだけで、基本的には緑茶と同じ植物です。
ですから紅茶も緑茶と同様に、硬水でいれるとタンニンとカルシウムが結合して味や香りが損なわれ、濁った色になってしまいます。
イギリス以外の国で紅茶を注文すると、たまに果っぼい色をしたお茶が出てくることがありますが、これも水の性質と関係しています。しかし、紅茶は緑茶と違って沸騰したお湯で煮出すやり方でいれますから、軟水でもあまり硬度が低すぎる水は向きませんし、また茶葉の種類によっても、適する硬度が微妙に違います。「紅茶の王様」と呼ばれるダージリンは 「龍泉洞の水」 など硬度 100 未満の水がベター。
硬度が高すぎると「マスカット・フレーバー」と称される独特の芳香が引き立ちません。ただし、実際には、硬度297の「エビアン」でもおいしく飲めました。これがセイロン茶になるともっと硬度に敏感で、硬度が高いと香りが出ず、低すぎると苦みが出てしまいます。硬度50前後の軟水が、一番おいしいはずです。
反対にやや硬度が高い中硬水が向いているのが、アッサム。アッサムはミルクティーに合う紅茶といわれ、もともと色も香りも濃厚なので、軟水でいれるとそれが強く出すぎてしまうからです。
コーヒーに合う水
コーヒーは南米原産の飲み物であり、どちらかといえば水のよくない地域で広く飲まれてきました。
ですから、本質的には、水の質や硬度にはあまり影響されません。インスタントコーヒーをいれるのであれば、極端に硬度が高い水を使わないかぎり、それほど味に差は出ません。
しかし、コーヒー豆の種類やローストの仕方にこだわるコーヒー党であり、コーヒーは必ずドリップでいれるという人であれば、硬水よりは軟水をおすすめします。
「南アルプスの天然水」や「ボルヴィック」といった味にクセのない軟水は、ていねいにドリップをすることによって、その豆の苦味や酸味、香りをそのまま抽出してくれます。
ただし、フレンチローストやイタリアンローストといった深煎りの豆を使う場合は、中硬水が向いています。
カルシウムが多い硬水だと苦味が十分に出ない半面、硬度が低すぎると苦味ばかりが強く出て、香りが消えてしまうからです。
特にエスプレッソのように高温、高圧でいれるものは、軟水だとただ苦いばかりになってしまいます。私が試した限りでは、深煎り豆には「エビアン」 が最も合っていると思います。
コーヒーメーカーでいれる場合はそれほど硬度を気にする必要はありませんが、深煎りの豆を使うなら、やはり中硬水を使う方がベターです。また、コーヒーメーカーで硬水を使い続けると、結晶化したカルシウムが機械の中に沈着してしまう場合があります。