心が病んでしまうのはなぜだろう?

複雑な社会構造

ストレスを上手に発散できずにいる

昨今は心を病む人が多い時代だと言っでしまえばそれまでですが、やはりその多さには、違和感を覚えます。そして多くの方が、容易に手に入れることができる、※ベンゾジアゼピン系抗不安薬(デパスなど) やSS RI(選択的セロトニン取り込み阻害薬、パキシルやルボックスなど)を、まるでサプリメントでも摂るかのように常用しているのです。

某金融機関に勤める26歳の男性Oさんは転勤族です。そのOさん、まったくなじみのない土地にやってきて、本人いわく、「方言や風習の違いで非常にストレスがあり、不安な気持ちが強くなった」そうです。もともとOさんは生真面目な性格で、仕事はしっかりとがんばらなくてはいけないと肝に銘じて辛うじて出勤はしているのですが、どこか気持ちが乗らなくて、仕事に集中できないそうです。人と接するのもおっくうになり、どうも精神的に変だと自覚し、1ヶ月前に近所の開業医をたずねました。開業医の専門は内科であったそうですが、あまり丁寧に診察をすることもなく、「特効薬がありますよ」と簡単に言われて、パキシルを処方されました。

薬をもらってからずっとのみ続けているがあまり変化もなく、不安な気分は相変わらず取れないし、むしろ少し症状が悪くなってきたみたいで余計にストレスになっているそうです。

相談の前に、私はあらかじめOさんの上司から、あらかたの経過とOさんの気質などを聞いていたのですが、非常に印象深かったことは、聞いていたイメージと会ったイメージが、かなり異なることでした。具体的には、会ってみると少し攻撃的な感じがしたのです。

そしてすぐに思い出したのが、ある本に記載があった「パキシルには攻撃性が出ることがある」という文言です。

私はゆっくりと彼の話を聞きながら、とりあえず、パキシルをいったんやめてみることを提案し、1週間後にまた会う約束をしました。

1週間後「パキシルをやめて4日日くらいから、気分がよくなってきて、気持ちも穏やかな感じになったがします」と、Oさんが述べるまでもなく、薬のせいだったのだと、会った瞬間の顔の輝きで確信を持ちました。

もう1つ、典型的な例を挙げてみましょう。このようなケースも実に多いのです。

年金生活をする65歳の男性Pさん。38年間勤め上げた大手企業を60歳で定年退職し、自宅で庭いじりをする毎日になりました。妻は職業を持っているため平日は仕事に出かけます。したがってPさんは平日は1人で過ごすことが多くなり、次第に抑うつ状態になっていったようです。3年前から高血圧ため某公立病院に通院していましたが、その主治医(循環器医)が、Pさんの抑うつ状態を見かねてか、「抑うつのお薬もついでに出しておきましょう」と、非常に親切に処方箋を切ってくれたのです。ちなみにその主治医が処方したのは、ルボックスというSSRI剤でした。ルボックスをのみだしても、抑うつ症状は一向に改善せず、むしろ余計に抑うつ症状が進んだように、家人には見えました。だんだんとPさんの活気がなくなっていき、意欲もなくなり、歩くこともままならない状態になってきたので、主治医に相談したのですが、その主治医は「抑うつ症状に認知症も加わってきたようだ」と家人には説明しました。しかたなくそのまま様子を見ていますと、いよいよ呂律も回らなくなり、尿失禁まで出現してきました。このような状況下に、家人から相談があったのです。

まずは「ルボックスが極めて怪しいのでルボックスをやめてみましょう」と提案しました。そして、その上で、もしも必要であれば、内科医ではなく、しっかりとした心療内科の専門医にかかるようにと付け加えました。

Pさんは、ルボックスをやめて3 日間はあまり目立った変化はありませんでしたが、4日日から、みるみる活気を取り戻し、しっかりとしやべるようになってきたのです。1週間後には1人で近くの温泉に出かけるほどまでに症状は改善してきたのでした。

今は安易に抗不安剤、睡眠剤、抗うつ剤が処方されています。非常に由々しきことだと思います。短い期間に限ってうまく活用するのであれば、さほど問題にはならないのかもしれませんが、それは処方する医者が責任を持ってフォローするという前提のもとでの話です。

薬を処方するということは、すなわち毒を盛るということです。したがって非情な決断が要求されますし、ふつうは身の引き締まる思いを持つものです。新しい薬を処方するときなどは、数十年医者を続けていても、やはり怖いものです。患者さんがどうなるか、しばらくの間はとても気になつてしかたがないものです。そのためもあってか、小心者の私はできるだけ薬剤を処方しないのです。

うがった見方になるかもしれませんが、ゆっくりと患者さんと向き合って言葉を交わす時間を割愛するがために、睡眠剤や抗不安剤でお茶を濁しているような、そんな印象を強く受けるのです。確かに使いようによっては有用な薬剤ですが、やはり薬剤は薬剤、連用は避けるのが自然だと思います。薬剤すべてに言えることですが、薬剤の連用で一番に懸念されるのは自己治癒力を低下させることです。つまり、具体的に述べますと、リンパ球の機能低下をもたらすということです。そうなればがんが発生しやすくなるということは、みなさんが容易に推測するところです。

関連ページ

サブコンテンツ

このページの先頭へ